ようこそ法律の館4階19号室(期限の利益損失の部屋)へ
分割払いの回収は
「期限の利益の喪失」を約束する
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◆分期限の利益とはどういう意味か

契約書には、

「乙が分割金の支払いを一回でも怠ったときは

期限の利益を喪失する」という条項がよくあります。

この「期限の利益」というのは抽象的で、

ピンとこない表現です。

期限の利益というのは一体どういうことでしょうか。

AさんがBさんから返済期限

平成四年一〇月三〇日としてお金を借りたとします。

このとき、Bさんは平成四年一〇月二九日までは

「Aさんにお金を返せ」という請求はできません。

Aさんは平成四年一〇月三〇日までにお金を返せばいいので、

それまでの期間は返す義務は発生しません。

このように、義務の履行期限を決めたときは、

期限は債務者のためにあります。

そして「期限まで義務を履行しなくてもよい」というのは、

債務者にとって利益ですから「期限の利益」といっています。

 

◆期限の利益の喪失とは
どういうことか

債権の回収について、よく出てくる問題が分割払いです。

貸金を回収しようにも相手に

それだけの支払い能力がないというときに

使われるのが分割払いです。

債権者は債務者が毎月工面して

一回に支払える金額を考えて、

その額ずつ分割して支払ってもらい、

回収しようというものです。

ところが、分割払いの約束をすると、

それぞれの分割金には分割金の支払期限が定めてあって、

これらの期限がくるまでは

債権者は請求することができません。

たとえば、一二〇万円を毎月一〇万円ずつ

返済してもらう約束のとき、

二回目の分割金の支払いをしなかったとしても

残額全部を請求することはできません。

期限の利益は債務者のためにありますから、

当然のことです。

こんなとき、債務者が倒産したりして

分割金全部の期限まで待っていたら、

他の債権者に債務者の財産を差し押さえられたりしてしまい、

自分が回収しようとするときには

債務者の財産はなかったということになります。

そこで、分割払いの約束をするときは、

いざというときには残額全部について

債権の行使ができるようにしておくことが必要になります。

そのためには、分割払いは認めるが

一定の事由が発生したら期限の利益を失わせる、

という約束をしておくことです。

その例が、前述した

「分割金の支払いを怠ったときは期限の利益を失う」

という条項なのです。

◆期限の利益喪失の約束は
間接的な強制力

分割払いの債権について、

債権者が債権の回収をするためには

期限の利益喪失の約束は、

必ずしなければないものという意味が理解できたと思います。

ところで、期限の利益喪失の約束は、

支払いをより確実にするという別の面をもっています。

債務者の立場から言えば、

なんとか分割金の支払いをしていれば

一括して支払わなくていいというメリットがあるということ、

支払いを怠って期限の利益を喪失すると

残額一括の支払い能力はなく、

他の財産を押さえられる危険があるという

ことを考えることになります。

そうすれば、なんとか工面してでも分割金の支払いは

守ろうということになります。

期限の利益喪失の約束は、

債務者に分割金の支払いを守らせる

心理的強制力があるといってよいでしょう。

次回は4階20号室へ!!!

 


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