特許権、実用新案権、意匠権、
商標権は原則として設定登録によって
権利を取得します。
そして、同じ出願が競合すれば、
先願主義といって先に出願した者だけが
権利者となれることになっています。
ところが、出願され登録されたと同じ内容の発明、
考案、意匠、商標を、この出願をする以前から、
登録しないまますでに使っている者があるとき、
この者が使用している状態を「先使用」といいます。
登録しないで使っている間に他の者が
登録してしまったというとき、
登録しなかったのが悪いといって、
先使用者の使用権を取り上げ片づけてしまっては、
登録をしなかった者に酷です。
そこで、これらの権利を登録した者と先使用者との間の
利害調整をすることが必要になります。
法はこのようなときに先使用者に対しても、
ある範囲内で使用権を与えることにしています。
そして、この権利を「先使用権」といっています。
◆特許権・実用新案権の先使用権
特許は発明を、実用新案は考案を内容としています。
発明というのは高度なもの、
考案というのは発明ほど高度なものではない
といっていいでしょう。
先使用権については、特許権と実用新案権とは
同様な扱いになっています。
独自に特許権や実用新案権と同じ内容の発明、
考案をして、特許権者や実用新案権者が
その権利の出願前から使用したり、
使用する準備をしていた者には、
特許権、実用新案権を登録取得した者があっても、
これらの発明、考案については
通常実施権があることになっています。
これを「先使用による通常実施権」といっています。
自分が使用していても登録権利者から
権利の侵害といわれないだけということで、
他人に使用させる権利はありません。
◆意匠権の先使用権
意匠というのは商品そのもののデザインです。
意匠権者が登録出願する前から同じ内容の意匠を考え、
この意匠による商品や、
これと似た意匠の商品を作ったり
販売したりしていた者は、意匠登録がなされても、
その意匠を登録権者から差し止めを受けることなく
使用できることになっています。
特許権などの場合と同じように
通常実施権があるということです。
つまり、登録した権利のような強さはなく、
自分で使用することができるだけということになります。
◆商標権の先使用権
商標権についても特許権や意匠権と同様に
先使用の問題があります。
商標は商品につけられる「しるし」であり、
そのしるしをつけた商品は「A社の商品だ」という
出所を明らかにしたり、
そのために信用を保証する役割をもっています。
ところで、商標権に特許や意匠と同じような形で
先使用権を認めてしまうと、
どの商品がA社の商品で、
どの商品が先使用者の商品か
区別がつかなくなってしまいます。
そうすると、先使用をそのまま認めることは
商標の本来の目的を達成することができません。
そこで、商標については、
これらの欠点をカバーするため、
商標登録権者が商標登録を出願する前から
使用している場合であっても、不正競争の目的がなく、
需要者に普及して名前が知られているような場合だけ
先使用権が認められています。
それでもまぎらわしい名前のときは、
商標権者は先使用者に「区別のしるし」を
つけるよう請求することができます。
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