●拇印とは、印の代わりに親指の指紋をあらわしたもの
「拇印」というのは手の親指の先に朱肉、墨をつけて、書類などに印の代わりに押しつけ、指紋をあらわしたものをいいます。印鑑の持ち合わせがないときに印鑑の代わりに使ったりします。
拇印は通常は右手親指で押しているのが一般的で、「爪印」ともいいます。手のほかの指の紋を押して押印代わりに使う場合もあり、これを「指印」といっています。
●拇印の契約書でも有効か
私たちは契約が成立したとき、契約書などに「承認したしるし」として記名押印をします。この押印の代わりに拇印を使ったらその契約書の効力はどうなるでしょうか。結論から言えば、拇印による契約でも有効です。
拇印にはその人の体の一部があらわれます。そして、同じ指紋の人はいないといわれていることから考えると、指紋はその人だけしかあらわせないということになります。ですから、拇印は本人が間違いなく押した(承認した)という意味ではもっとも信頼度の高いように思えます。
拇印のこのような性質からいえば、印鑑の押印と同じ、またはそれ以上の効力が認められていいはずです。
問題は拇印といっても比較するものがないことが多く、本当にその人の拇印かどうかの判定に困るという欠点がります。
もっとも、このような問題は三文判の場合でもあります。三文判でも、本当にその人が押したのか比較するものがありません。要するに争いになったときに証明しやすいかどうかの問題であって、本当に本人の拇印であれば有効なものといえます。
●拇印の遺言書は有効か
ところで、拇印や指印で遺言書を作成したときはどうなるでしょうか。
民法では「遺言は民法の定めた方式にしたがわなければできない」として一定の方式を定めています。そして、「自筆証書遺言」や「秘密証書遺言」では、自署と押印をすることが方式として定められています。
そこで、拇印による遺言書は方式に反しているため無効なのだという考え方がありました。遺言は重要な行為なので一定の方式以外の遺言は無効にする趣旨だというわけです。
ところが、最高裁判所は「自筆証書によって遺言するには、遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自書したうえ、押印をすることを要するが、この押印は遺言者が印章に代えて拇印その他の指頭に墨、朱肉をつけて押印することで十分である」という趣旨の判決をしています。
そして、拇印はその人の死後は比較対照するものがないという主張に対しては、民法は遺言書に使う印章に制限を加えていないのだから、印章による押印も比較対照できない点では同じであり、拇印だから特に劣るものではないという判断をしています。現在では、拇印によって遺言を作成しても有効だと考えてよいでしょう。
戻る
|