妙満寺は、室町時代に日什大正師によって創建された寺である。 長い歴史の中で幾度かの兵火に遭い、昭和43年に現在の場所に移築された。 天高くそびえ立つ仏舎利塔が特徴的で、初めてここを訪れる人は一様に「不思議な寺だ」と口を揃える。 しかし、ツツジやスイレンが咲く庭園は実に美しく、地元市民や観光客が多数訪れる京の名所の一つとなっている。
「妙満寺にお参りに行こう」
日頃、神社仏閣にはあまり興味を示さない佐竹将太(仮名、19歳)さんが、恋人の山川幸代(仮名、18歳)さんを誘ったのは、うららかな初夏の日だった。
「どうしたの? お寺なんかに滅多に行かないのに?」
山川さんはちょっと不思議に思ったが、せっかく京都の大学に進学したのだから、お寺の一つや二つ見学するのも悪くない。 そんな軽い気持ちで、二人は妙満寺に向かったのだ。
二人は妙満寺見物を十分に堪能した。 そして、事件は妙満寺を出てしばらく歩いた時に起こった。
「次はどこに行こうか」
佐竹さんが山川さんに声を掛けると、山川さんは電柱にもたれ掛かり、なにやらブツブツ独り言を言っている。
「どうしたの? 幸代ちゃん、なにかあったの?」
そう佐竹さんが尋ねると、山川さんはやはりブツブツと何かを言っている。 よく聞くと、それはどこかのお経のようだった。
「幸代ちゃん、なにお経なんか唱(とな)えてるんだよ。 坊さんみたいだぜ」
佐竹さんが笑ってそう言うと、山川さんはキッと両目を見開きいきなり、佐竹さんに襲い掛かった。
「無礼者! お主、成敗してくれるわ!」
しかし、佐竹さんはアハハハハと大声で笑っていた。
「幸代ちゃん、演技力あるね、でも、あまり怖くないよ、幸代ちゃんがやっても」
それが山川さんの演技であると思い込んでいた。
しかし、山川さんの様子は変わらない。
「我こそがこの寺を継いだ者である。 無礼なことを申すな!」
まるで時代劇の俳優のように話し続ける。 あまりの異常さに不気味に思った佐竹さんは、山川さんの肩を思いきり揺すり声を掛けた。
「しかりしろよ、幸代、しっかりしろ!」
すると、山川さんは、ふっと体の力が抜けて泣き崩れてしまった。
「私どうしたの? 何も覚えていないの」
佐竹さんはその瞬間、電柱の上から、スーッと冷たい空気が降りてくるのを感じたという。
(関西怨念地図より)

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