その一 侍も借金には四苦八苦!?
経済生活をしとる以上、借金ってのは誰にでも常につきまとってくるもんや。
せやから、江戸時代に生きとった人間も、やはり借金からは逃れられんかったらしい。
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当時の一般庶民〜主に商業に従事する町人〜の借金の仕方は、
だいたい2種類に分けられとった。
ひとつめは「百一文」って方法や。
例えば100文借りたら101文返済するってやつで、
場合によったら100文借りて103文返すってのも「百一文」て呼ばれとったらしいな。
もっと詳しく説明すると、仕入れ銭として借りた額に利子を足して返済する、
ってな方式の借金形態で、主に街の小売商人が用いてたらしいな。
金融業者を介したお金の貸し借りとはちゃう種類のもんで、
商人は商品の仕入先の親方から直接借りとった。
親方から朝100文借りて、売り上げが出てから夕方101文にして返済する、
ってことで、要するに親方からの借金で商品を仕入れて、売り上げの中から
利子を付けて返済する、って事やな。
もひとつは「鴉金(からすがね)」って呼ばれとった形態で、
こっちはあらかじめ利子を天引きして金銭を貸し付けるって手法や。
例えば100文借りる場合には96文しか現金として貸してくれへん、
ってことやな。
ほんで夕方になったら100文にして相手に返済せなあかん。
主に零細の金融業者が使ってた方法らしいんや。
因みに当時の"利子"やけど、
金融業者関連の借金の場合、大体月に「五両一」っていう形態やった。
五両借りて月に一分(一両の四分の一)の利子が付く、
つまり五両の元金に対して月利が一分、ってことやな。
月5%、年利にして60%の利息が通常やったみたいや。
ところで江戸時代は、庶民よりもむしろ武家の方が借金に苦しむケースが
多かったんやけど、この武家相手の金融をやってたのが「札差(ふださし)」
って呼ばれとった業者や。
この「札差」ってのは、現在の台東区蔵前辺りに多く集まってたそうや。
蔵前て言うたら「旧国技館(蔵前国技館)」があったことで知られとる街やけど、
江戸時代この界隅には幕府の「御蔵」、つまり金庫があって、その前(周辺)に
広がる街ってことで、"蔵前"とかいう町名が付いたみたいやな。
ところで幕府の「御蔵」があった、っちゅー事は、つまり武家(旗本&御家人)
に対する給与になる米がこの蔵前の地に集められとった、ってことを意味するんや。
米は隅田川から陸揚げされて「御蔵」に運ばれたんやが、この給与としての米、
当然米のままやったら買い物なんかできへんから、
武家は米を米屋に売却して現金に換える必要があったんや。
ところが、この一連の作業がなかなか煩雑なもんやったらしくてな、
武家はこの作業を特定の業者に代行させるようになっていったんや。
この特定の業者ってのがつまり「札差」って事なんや。
「札差」は、米換金の手数料として米100俵につき3分を取った
とされとるけど、もちろんそんだけやったら大した収入にならん。
せやから、武家に対して金銭の"前貸し"をするようになっていったんや。
そないしたら、前貸しの利息のおかげでどんどん資産が膨らんでいく
っていう寸法やな。
なんて言うても武家の給与である米は幕府から支給されとる。
つまり将来的にも必ず一定量が支給される、っていう
幕府からの保証がされとるも同然なワケやから、
「札差」側としては安心して武家にカネを貸すことができたんや。
反対に武家側としても「札差」に対してなんも遠慮せんと前借りを頼めた
ってことになるな。
ところがその「安心感」が、武家側の放漫で無謀な「前借り」習慣を
生み出す原因になってしもた。
何しろ3代前の利息を孫が払ってたりするような状態も
しばしばあったらしいやんか。
前借りが余りにも嵩みまくって、遂に「札差」側から"これ以上は貸されへんわ”
って融資を断られる、
今風に言うたら、「ブラックリストに載せられた」武家も続出したんや。
で、そんな「ブラックリスト」状態の武家は、更なる前借りを強引にでもやる
必要が生じたワケやが、何せ武家となれば家名や主君の存在、立場上の問題で
自分自身では余り無茶な行動は出来へん。
せやから、専門の業者に「札差」への恐喝〜強引な前借り要請を依頼
したヤツも出てきたらしいな。
この"恐喝専門業者"を「蔵宿師(くらやどし)」と呼んでたんやが、
この「蔵宿師」揃いも揃ってスネに傷持つコワモテばっかりやったらしいな。
ところが「札差」の方もしっかり対抗措置を講じとったんや。
蔵宿師を追い返す為の専門業者、「対談方」ってのを用意しとった。
当然「対談方」も、蔵宿師に勝るとも劣らないコワモテ揃いやったことは・・・
言うまでもないな。
【参考文献】
『大江戸ものしり図鑑』(主婦と生活社)『宵越しの銭〜東京っ子ことば』(河出書房新社)『大江戸庶民事情』(講談社)