21.付合契約とはどういう契約か(9/20)

●電車に乗ることも運送契約に基づいている

私たちが日常電車に乗るという場合、どういう契約を結んでいるのか考えてみましょう。「契約なんかしていない」と言う返事が返ってくるかもしれません。「切符は買ったが鉄道会社とはなんの契約も調印していない」と言われるでしょう。しかし、ある駅からある駅まで電車で運んでもらうというのは正確に言うと運送契約に基づいているのです。

このように私たちの日常生活のなかでは、契約を意識しないで実は契約のお世話になっている場合もあるのです。電気、ガス、水の供給を受けたりするのも契約に基づくものですが、契約という感覚はありません。

契約である証拠には料金を支払わないと供給をとめられるということから、なるほどと思われると思います。このような場合、契約をどう捕らえたらいいのでしょうか。

●調印しない契約

電車の例でいうと、その仕組みは、鉄道会社が運送契約の内容を運送約款として一方的に契約内容を定め、電車に乗る人は、この約款を承諾して乗車券を買って電車に乗り、目的地へ運んでもらうということになります。乗ろうという人が約款を承諾して切符を買ったときに契約が成立したということになります。

もっとも、どんな約款か見ている人はほとんどいないでしょうし、まして内容を知っている人はいないと思いますが、電車で運んでもらうには切符を買って乗ればいいのだ、というくらいのことはわかっています。通常はそれでいいのです。

ところが、特急電車が遅れたりしたとき、特急券を払い戻せ、という問題が出てきます。この場合、運送約款に何時間遅れたら特急料金を返すというような定めがしてあります。払い戻すかどうかは約款に基づきます。

こんなときに約款という契約条項の素顔が見え、電車に乗るのも契約なのだということを意識されるのではないでしょうか。

●付合契約と約款

ところで、鉄道会社が電車に乗る客一人ひとりといちいち契約書を作り、これに調印していたら、鉄道会社は客をさばききれません。このように、契約の相手方が多い取引のとき、迅速に処理する方法として考えられたのが約款です。

鉄道会社のほうで契約内容を一方的に定め、客がこれを承諾することによって契約を成立させるという方法をとります。

このように、鉄道会社が一方的に定めた契約内容を約款といっています。客はこれを承諾して乗車するので、いちいち契約内容(約款)を変更したりすることの交渉はありませんし、客はこの約款を承諾して乗車しているのです。

約款による契約の成立のように、鉄道会社が決めた契約条項を客が認めて電車に乗るときのように、一方が決めた条件を、相手が承諾して契約を成立させるような契約を「付合契約」といっています。

約款による契約は一方が決めるのですから多数の人の利害に影響します。約款はある意味では法律のような力をもっているので、約款が契約の相手方である客に対して不当に不利にならないように、監督官庁が約款をチェックするという方法がとられています。

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