9.振出人の押印のない小切手を受け取ってもよいか(10/3)

●小切手の有効要件

小切手が有効なためには一定の要件を備えていることが必要です。この要件のなかには「振出人の署名」が入っています。

小切手は、振出人が銀行に対して、「自分の当座預金口座から小切手の持参人に小切手に書かれた金額を支払ってください」という指示書ですから、振出人の意思表示が必要です。

この意思表示が「署名」で、一般には「振り出し行為」という表現をしています。要するに署名は小切手の有効要件のいちばん基本的な要素なのです。したがって、署名があるかないかによって効力が左右されます。

●署名とは記名押印も含むもの

小切手法は、振出人の意思表示について原則として「署名が必要だ」と定めています。振出人が、振り出し行為をしたという意思表示がいちばんはっきりするのが署名です。というのは、署名は本人しかできず、他人が代わりにすることはできないからです。

ところが、わが国の現実の感覚では印鑑に重きをおいており、「ハンコがないと無効だ」と考える人もあるくらいです。そこで「印鑑を押す」ということにウエートがある現実に対応するため、小切手法は、署名というのは「記名押印も含むもの」ということにしています。

●署名だけの小切手で決済を断わられるとき

このように小切手法は、振出人の意思表示は「署名」でもよいし「記名押印」でもよいとしているのですが、実務ではそのとおりではありません。
小切手は支払いを委託した銀行に支払いの指示を与えるものですから、銀行との支払い委託についての約束が前提となります。そして、小切手を振り出す人は銀行との小切手取引の約束で、小切手に使用する名称、印鑑を届け出て、銀行が作成した小切手用紙を使用するのが通常です。

このような場合は、振出人と銀行の間の約定が「届け出た名称、印鑑による振り出し小切手は決済してください」ということになっています。ですから、振り出された小切手に「署名」ではなく、「記名」と「押印」があれば決済されるので、「署名」があっても「押印」がないと決済してくれないということになります。

「署名は記名押印より確実だ」といっても、取引約定がそうなっているからです。しかし、「署名(記名でない)」のみの小切手でも、法的な意味では有効な小切手ですから、不渡りになった場合でも小切手金額請求訴訟はできるし、証拠としても使えます。

●署名だけでも決済される小切手

前述したように、小切手法は振出人の意思表示は署名でよいとしているのですから、小切手取引の約定に署名のみで振り出すということになっていれば、振出人の署名だけでいいということになります。

実務では、いわゆるパーソナルチェックといわれる小切手の多くが「署名のみ」で振り出す約定になっているようです。

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